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[2024/11/06]海外ビジネスの「代理店」について、よくある混同
「代理店」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
「保険代理店」、「旅行代理店」、「広告代理店」、「販売代理店」、「輸入総代理店」という言葉を聞いたこともあるでしょう。
しかし、長年海外ビジネスに身を置いた経験からみると、日本ではあまり深く考えずに「代理店」という用語を使っているように思います。
「代理」とは、本人に代わって一定の行為を行う権限(代理権)が与えられている者(代理人・代理店)が行った行為の効果が、本人に帰属する制度です。 「代理店」は商品やサービスの販売を促進し、メーカーやサービス事業者と顧客との間の契約を成立させる”口利き” の役割を果たします。
例えば、私たちが自動車ディーラーで自動車保険の契約をする場合、保険契約は自動車ディーラーとするわけではなく、その背後にいる損害保険会社の契約書にサインします。自動車ディーラーは「保険代理店」として、損害保険会社から一定の手数料をもらいます。
一方、旅行代理店はどうでしょうか?パック旅行などでは「旅行代理店」の契約書フォームが使われ、契約主体が旅行会社となって、旅行サービスを提供する役割を果たすケースもあります。そのため、「旅行代理店」という名称は少し誤解を招くかもしれません。
「日本総輸入代理店」といった場合は、本来は日本の顧客と海外のメーカーとの契約を仲立ちするものです。しかし実際には輸入商社が海外メーカーから仕入れた輸入品を、輸入商社から買う流れとなるのが通例です。 本来の意味の代理店とは異なります。
上記の最後の例、「日本総輸入代理店」といった場合は、海外とのビジネスでは「代理店」ではなく「販売店」と言います。 日本から輸出する場合も、「現地代理店」と言ったりしますが、正確には「現地販売店」です。
海外ビジネスにおいて、「販売店」(以下、ディストリビューター)と「代理店」(以下、エージェント)という言葉の定義は非常に重要で、次のような違いがあります。
(1) ディストリビューターはメーカーから商品を購入し、在庫として保有します。売れ残りのリスクも負います。 一方、エージェントは契約の”口利き役“ですので、自ら在庫を保有しません。
(2) ディストリビューターはメーカーからの仕入れ値をもとに自社で価格設定を行います。 一方、エージェントが行う販売活動においては、メーカーに売値の決定権があります。
海外販路開拓上、ディストリビューターとエージェントのどちらを選ぶかは、ビジネスの性質や戦略によります。
ディストリビューターは、大量生産品や標準品のメーカーが販路を広げ、在庫リスク、代金回収リスクを現地側に転嫁したい場合に適しています。中小企業は通常、現地の中小輸入商社をディストリビューターとして起用します。
一方、エージェントはメーカーが市場に直接関与し、契約や価格交渉をコントロールしたい場合に適しています。また、どちらかと言えば受注生産の高額製品を扱うことが多く、小規模な企業や個人事業形態が主体となる傾向があります。代金回収リスクは通常、メーカーが負います。
なお、エージェントと似た用語にセールスレップというものがあります。セールスレップも小規模な企業や個人事業形態が中心ですが、エージェントとは異なり原則としてセールスレップには顧客との契約締結権限(代理権)はありません。当該企業の商品やサービスを販売促進する役割が中心となります。 ただし、両者の境界線は必ずしも明確ではありません。 メーカーとの契約内容によっては、セールスレップが一部の契約を締結できる場合もあります。アメリカでは、セールスレップはエージェントよりも権限が限定されることが多いですが、その他の国や業界によってはその区別が曖昧になることもあります。
ディストリビューターとエージェントとの違いを理解することは、海外販路開拓の上で非常に重要です。各々の役割や責任を明確にし、ビジネスの目標に最も適したパートナーシップを選ぶことで、成功への道を切り開くことができます。
(国際部 三上 彰久 会員)