学びの場
[2021/10/2] 2021年度 城東スキルアップコース(第5回)開催報告
台風一過の10月2日(土)、城東スキルアップコースが開催されました。前回同様、完全オンラインでの開催となりましたが、受講者24名は充実した講義内容に真剣に参加していました。
今回の講義内容は次のとおりです。
1.課題図書発表「マネジメント 基本と原則」(P・F・ドラッカー著)
2.事業継続計画(BCP)(講師:長島孝善会員)
3.資金繰りと管理会計(講師:本田一也会員)
1.課題図書発表「マネジメント 基本と原則」(P・F・ドラッカー著)
課題図書の発表は今回で3回目となりますが、過去2回に比べて今回の課題図書は抽象的な内容も多く、A3資料にまとめるのが難しかったという声が散見されました。そのような状況においても受講者は課題図書のポイントをそれぞれの視点でしっかりと捉え、資料にまとめており、苦労の跡が感じられました。
発表方法についても、過去2回の経験を踏まえ、改善や工夫がありました。単なる課題図書の内容説明だけではなく、自分の経験と照らし合わせて考えを述べたり、関連する参考文献を紹介したりするなど、受講者の個性が感じられる多様な内容でした。身振りや手振りに加えて、抑揚のある話し方など、これまで以上に聞き手を意識した発表が多くなってきた印象を受けました。
講師の鈴木康文会員からは、課題図書の理論を使った「中小企業診断時チェックポイント(ヒアリング時に確認する事項)」の紹介があり、ヒアリング項目にドラッカーが主張するマネジメント論や人材や組織に関する項目が多く含まれていました。
2.事業継続計画(BCP)(講師:長島孝善会員)
冒頭、長島孝善会員より「事業継続計画(BCP)の話は10年前だったら経営者と話をしていても話題になることはほとんどなかったが、今は経営者の関心事の一つになっている」との話がありました。歴史的に分析すると、M7クラスの大地震が南関東にいつ起きてもおかしくない時期に入っており、改めて危機意識を持つことの重要性を認識しました。
実際に災害が発生し事業が停止した場合、早期に事業復旧できなければ取引先を失う、さらには金融機関への返済が滞る等、中小企業にとっては死活問題になる。そのことを、私たち中小企業診断士はしっかりと認識し、支援していかねばならないと強く感じました。
講義では、災害発生前の平時対応や災害発生後の初動対応、事業復旧対応と時系列的に何を準備し、何をすべきか、何をリスクとして受容するかについて詳しく説明がありました。講義中の個人ワークでは葛飾区青戸の企業(架空)を例として、葛飾区のハザードマップを実際に見ながら、リスクの想定や初動対応、対策の助言内容を考えました。他の受講者の発表や講師の説明を聞くことで、自分の考えた助言内容で不足している部分を再認識した受講者も多かったと思われます。実践ではそういった反省は“時すでに遅し”であり、平時からBCPを経営者に意識させることも中小企業診断士の大切な役割と痛感しました。
3.資金繰りと管理会計(講師:本田一也会員)
午後は、本田一也会員より資金繰りと管理会計の二本立ての講義となりました。
前半の「資金繰り」では、資金繰り表とキャッシュフロー計算書は時間軸の概念が違うということをまず確認。資金ショートのリスクを低減するために、企業経営においてキャッシュ管理は最も重要な視点と言えるものです。中小企業診断士として、資金繰り表の作成をサポートするスキルは必須であると改めて感じました。
また、事前課題で与えられた資金繰り表の作成を通して、消費税の扱い方や、損益計算書と貸借対照表から資金の流れを読み取るポイントを確認しました。
さらに、トピックスとして2023年から導入予定の適格請求書等保存方式(インボイス制度)についてもご教授いただきました。今後は免税事業者が苦境に立たされると予測されるため、中小企業診断士の立場から簡易課税制度などの代替手段を幅広く紹介できるよう、税制についても知識を深める必要性が高いことが分かりました。
後半の「管理会計」では、「管理会計」とは「利益をあげ事業を継続するための業績管理と意思決定を行うための会計」つまり「経営に役立つための会計」なので、より適切な表現は「経営会計」だというお話があり、非常に印象に残りました。
中小企業では、会社経営や業績管理のためではなく、確定申告のために会計処理を行っている会社も多く、経営に必要な会計情報が整備されていないことが多いようです。会計システムの機能を活用して売上の区分別管理(クロス集計)ができれば、マーケティングの基本である「誰に」「何を」が浮き彫りになり、企業診断を進める上でも大変有用となります。まずは、売上などの情報が表計算ソフトも併用して整理される必要があると感じました。
資金調達については、金融機関からの融資やセーフティネット制度など具体的な資金調達の方法を網羅的に示して頂き、経営者に助言する上で必要な知識が深まりました。
4.感想
今回は、事業継続計画(BCP)や資金繰りといった中小企業の経営上、極めて緊要な内容を、ワークを行いながら実践的に学ぶことができました。
私たちの支援先である中小企業では、BCPの作成が不十分であったり、資金繰り表が作られていなかったり、管理会計の視点が未活用である企業も多いと思われます。中小企業診断士がこういった観点に強くなることで、潜在的な会社の課題を洗い出すことができ、的確なアドバイスを行えるようになるということを理解しました。
インボイス制度の導入も決まり、中小企業の支援者にもさらなる財務・税務の知識が求められます。こうした重要な課題に対して、適切な助言のできる付加価値の高い中小企業診断士になれるよう精進したいと思います。
今回の講義からまもない10 月7日に千葉県北西部を震源とする地震がありました。足立区も震度5の揺れを観測し、予期できない災害が起こると心理的にも動揺することを痛感しました。大規模災害が身近に潜んでいることを改めて思い知る機会となり、事業継続計画をしっかりと準備しておくことの重要性を改めて感じました。
5.次回(第6回)の予定
日時:2021年11月6日(土)9:15~17:00
会場:浜町区民館(中央区日本橋浜町)+オンライン
講義内容:
①伝わる話し方 講師:一色映里氏(ストラーダ合同会社 代表)
②公的支援制度の活用 講師:橘真美子会員
(湯山空樹会員、高橋佑樹会員)